イスラエルがウクライナへのスパイウエア提供を断る

公開日:2022年03月25日

小説家やジャーナリストなど、生業として物書きをしている人たちの文章というのは、どんな名作や労作であっても、物事の真実や本質よりは、敵と味方、主役と悪役など、白黒はっきりさせることで、よりわかりやすく面白く「売文」したいというバイアスが働きがちであることに注意して取り組むべきだと思っています。
私は売文家ではないですが、この点は十分自戒すべきなので、面白いけど断定的な情報に出くわしたときには、反論をなるべく探そうと心がけているつもりです。
 

正義の味方となったゼレンスキー大統領

 
ロシア対ウクライナの紛争では、ロシアによる侵攻前は40%程度だったゼレンスキー大統領への支持率が90%へと急騰したと言われています(注1)。
ロシアに対する経済制裁で合意をしている「民主主義陣営」の国々でも、ゼレンスキー大統領が、プーチン大統領率いるロシアという軍事力では敵いそうもない相手を大番狂わせで倒すかも知れない正義の味方なのだという通念が醸されていることに異論はないでしょう。

ロシア陣営が流すフェイクニュース(?)にもかかわらず、プーチン大統領がやっていることが人道に反している現実は否定できないでしょう。しかし、ゼレンスキー大統領を、その敵国に対する経済制裁とその取り纏め、そして武器輸出という経路に限定して、応援する米国指導者もまた正義の味方の味方だと言えるでしょうか???
素直にそう思ってしまう人たちは、ベトナム戦争、カンボジア紛争、イランイラク戦争、イラク戦争、アフガニスタン戦争、、、など第二次世界大戦後に限っても枚挙に暇がない、現在のウクライナ紛争と甲乙つけ難い事案を忘れてしまっている記憶力に乏しい方々でしょう。私のブログの読者にはそういうひとはひとりもいらっしゃらないはずです(注2)。

現代の不平等条約とアメリカの「勝利の方程式」

いつものように長すぎるブログとなりそうなので、あらかじめここで、投稿全体の見通しを良くするために、私の考え方の基盤をここでお伝えしておこうと思います。過去の投稿と一貫しているものです。第二次世界大戦後、国際連合が出来たり、「大国」などが核武装したりで、国際協調と核抑止力によって戦争はなくなると嘯かれてきた(日本の文科省の社会科にける学習指導要領もこれ然り)のはまったく事実と反し、実際は核武装させてもらっていない「小国」の内外で「大国」の代理戦争が繰り返されている。つまり、核拡散防止条約こそが現代の不平等条約である。核の偏在こそが、①米国がロシアを直接は叩こうとしない、②北朝鮮を野放しにせざるを得ない(一方、本当は「大量破壊兵器」を持っていなかったイラクは叩けた)理由(のひとつ)である、ということです。

支持率の儚(はかな)さを改めて感じたのは、米国議会でのゼレンスキー大統領の演説で、9.11のテロと並べて、真珠湾攻撃が敷衍されたことの報道で、日本のネット界隈で、「不勉強だ!」「もはやウクライナを応援したくなくなった」などざわついたことでした。
米国からのウクライナへの間接的な支援が強化されたのは、こうしたゼレンスキー演説が米国議会に刺さったからでは決してなくて、ウクライナ側の想定を超える善戦が、「勝てるほうに付く」、翻せば、「勝ち負けがはっきりしない外国の紛争には中立を保つ」)という、第一次世界大戦(注3)以降に米国がヨーロッパを差し置いてのし上がってきた際の「勝利の方程式」を満たしたということではないかと、私は考えます。

ただ、そのことは兎も角、ネット界隈での真珠湾攻撃への連鎖反応を見るに、おそらく若い世代も含めて、第一次世界大戦後のアメリカやソ連だけでなく、第二次世界大戦における日本も無謀かつ非合理的な判断で何故戦争に突入してしまったのかという真実に迫ろうというひとが着実に増えているのではないかとも思いました。
とは言え、ゼレンスキー演説への批判というのは、やや突っ込みどころが違うという感想も持ちました。やはりここで再度強調しておくべきことが、アメリカやロシア(などの国際連合の安全保障理事会の常任理事国)が核兵器を独占しているという理不尽こそ、本来はゼレンスキーが突っ込まなければならない(本当なら突っ込みたい)ところであって、しかし米国議会でそんなことは思っていも言えないから、不承不承、真珠湾攻撃と9.11というたった二つの事例で同情を、という代替戦略をとらざるをえなかったのだと忖度してあげるべきところなのでしょう。

さて、真珠湾攻撃に関しては、このブログでも繰り返し分析してきたつもりです。実は、私が元々はとある無料商材に申し込んだきっかけ(「坂本竜馬暗殺の真犯人は?」とかときどきネット広告に出てきませんか???)で、西鋭夫先生の存在を知りました。多くの意識の高い日本人がそうであるように、真珠湾攻撃もまた西鋭夫先生が戦後歴史教育における定説に切り込みたい核心部分のひとつということで大いに分析していらっしゃいます。しばしばこの商材がらみでメールマガジンを拝読させてもらっており、それらを私の独自研究のヒントとさせてもらっております。
真珠湾攻撃そのものはほとんど扱っていませんが、「占領神話の崩壊」という著書は図書館でも借りることができる労作です。
さきほど来、日本の文科省の社会科にける学習指導要領云々と批判していますが、いまだに、高等学校レベルの歴史や政治経済分野では、第一次世界大戦と第二次世界大戦との間(世界恐慌、ナチス台頭、日中戦争などがあった時期)、米国政治では、フーヴァー大統領(共和党)は出来が悪く、ルーズベルト大統領(民主党)は出来が良い、というステレオタイプな論述がされているようです。フーヴァー研究所の書物を精力的に読み漁る西鋭夫先生の書物からは、全く異なる歴史観が迸っています。
日本人目線からだと、野に下ったフーヴァー大統領は、日本をして真珠湾を奇襲せしめたハル・ノートや経済制裁(注4)に猛反対してくれていたりだとか、終戦の年、のちのトルーマン大統領に対して、日本に無条件降伏を迫るのは間違いだ、講和に応じろ、と指図する(注5)など、特異的な存在です。
が、なんといっても、フーバー大統領が(選挙で自らを負かせた)ルーズベルト「次期」大統領に対して、「(あなたはわたしの政策を引き継がないだろうが)ひとつだけはどうしてもお願いしたい。それは、英仏への債権の取り立ては緩めるべきだ。それこそが世界恐慌から各国経済を立ちなおさらせる(そして本家本元の米国経済も)抜本的な治療方法なのだから」と忠告をしたが、ルーズベルト大統領はまったく聞く耳を持たなかった、という事実もこそ重大です。
繰り返しになりますが、米国は、外国同士の戦争が自分に利さない間は中立を決め込み、戦後体制がはっきりしたとき(勝ち負けがはっきりしはじめたときに)介入するというヴァンテージポイントを活かしながらのし上がってきた大国です。その鍵が、戦費調達と戦後賠償に絡む債権債務関係なのです。この視座を以って、ロシアとウクライナの紛争も見てみたいところです。

ウクライナ≒ネオナチは全くのフェイクニュースなのか???

西鋭夫先生の話を何故したかというと、このごろもまた読ませてもらっているメールマガジンのなかに、プーチンの言う「ウクライナはネオナチに牛耳られている」というのは完全なフェイクニュースでもないかも知れないという話があり、これもまた、おびただしいフェイクニュースのなかから頑張って真実を手繰り寄せなければならないと思ったからです。
ウクライナの歴史は、日本のような島国とは異なり、大陸のど真ん中の穀倉地帯ということもあって、侵略したりされたりと、戦争に明け暮れたものになっていて、ウィキペディアを読み解くのも一苦労です。第二次世界大戦の戦中と戦後に限っても非常にややこしいと感じます。ここでもまた編集合戦が繰り広げられている恐れもありますが、確かに、多数派とは言えないものの、ウクライナ人の一部は、ナチス・ドイツ側に殺戮されず、その代わりに(←ここはよくわからない)ナチス・ドイツ側に立って一緒にソビエト・ロシアを攻めるという勢力に化したようです。ただ、そういう人たちが、第二次世界大戦後もうまく生き延びて、ソ連崩壊後に経済と政治の中枢を担えたのか、また、中国での同時期の国共合作と同じで打算的な結びつきに過ぎなくて、思想的にネオナチと言えるのかどうかは、もっと調査が必要です。
しかしながら、ここで非常に気になる情報が今週出ていました。ニューヨークタイムズ紙によると、イスラエルは、ウクライナ(とエストニア)から買いたいと言われてきたスパイウエア「ペガサス」を同国たちには売り渡さないと決めた。一般的な理由として、過去には、売り渡した国の独裁政権が国民を監視する(携帯電話の個人情報・位置情報や通信記録の傍受)など非民主的な目的で利用濫用された事案があり、それを繰り返したくないというのもあるようです。が、今回に限っては、イスラエルがロシアとの関係を害したくないから、とされています。
インドが、中国と同様、アメリカ主導の対ロシア経済制裁に参加しないというのも個人的には驚いていました。が、何となく、第四次中東戦争の流れで、(日本と同様?)アメリカべったりの国であるという印象のあるイスラエルのかかる決然たる態度は意外ではないでしょうか???
実は、有名すぎるイスラエルのスパイ組織「モサド」のOBであるEfraim Halevy氏によれば、少なくとも見た目には「小国」であるイスラエルがその実質的な創業期である第二次世界大戦直後においては、自分たちはまずアメリカに付くべきなのか(当時の)ソ連に付くべきなのか五分五分だったと書いています。よくわかりませんが、イスラエルにべったりなのがアメリカであって逆は必ずしも真ならずということなのかも知れません(当時も今も)。
それでもやはりプーチンの言う「ウクライナ≒ネオナチ」には自らの正当化のためのフェイクニュースという臭いがぷんぷんすると言わざるを得ません。ただし、このイスラエルの態度(やそれに対するイスラエル議会でのゼレンスキー演説における苛立たしさ)からは、このフェイクニュースにも一理ありというのがうかがえます。

一方で、ひとつ申し添えたいこととして、アヴァトレード・ジャパンの親会社はイスラエルですが、IT部門における協力会社の多くがウクライナにあります。そこのエンジニアの多くは、キエフから疎開して、状況厳しい中でも、リモートワークで弊社グループのシステムを支えてくれているようです。

こうなるといよいよ何が真実なのかわからないという話になりますが、そんなに物事をスパッと一刀両断にできる社会法則など存在しないと諦めれば済むことです。とにかく、一方的な情報だけに飛びついて白黒はっきりさせようとするのは愚者の営みであると自戒することが大切なのだと思います。
 

 

(注1)ウクライナのレイティング社による世論調査。ゼレンスキー大統領への支持率が低かった時期でも、ウクライナの他の政党(の指導者)たちのそれらよりは高かったこと、世論調査の対象として、すでにロシアが実効支配していると言われるドンバス地域とクリミア半島は含まれていないことに留意すべきでしょう。

(注2)先週末3/18(金)深夜(というか翌日未明)のテレビ朝日「朝まで生テレビ」(録画されている方は、田原総一朗氏のMC部分だけ早送りして、興梠一郎さんや(元防衛大臣)森本敏さんなどの発言だけをひろわれることをおすすめします)で、慶応義塾大学廣瀬陽子教授ご指名の視聴者の質問への回答として「イラク戦争などアメリカが行った戦争には大義または正義があったが今回のウクライナ戦争にはそれがまったくない。そこが違う」というのがありました。まさか本気でそう考えていらっしゃるわけではないと思うのですが、どういう圧力が働くとそう言わざるをえないのでしょうね。

(注3)アメリカ合衆国が建国できたのは、植民地支配をしていた大英帝国との独立戦争で、フランス(大革命の直前)からの経済支援があったればこそと言われています。当時までのフランスは、まさにそのアメリカ新大陸を巡る攻防で、大英帝国と七年戦争を戦い敗れたということで、その仕返しという意図があったらしいのですが、フランスはこの独立戦争で勝ち馬に乗ったにもかかわらず、そのリスク投資への配当に与れず、財政破綻など諸説ありますが、革命によりブルボン王朝は滅びるという展開になります。一説には、このころまでの対外戦争の戦費調達においては借りたものは返すべきという通念がはっきりしていなかったとされており、これを明確にはじめてしたのが、第一次世界大戦に途中で参加したアメリカだというのです。アメリカは、ドイツが戦後賠償をまっとうできるかどうかにかかわらず、戦時中に貸し出した、入りリスやフランスなどの三国協商国への債権は絶対に放棄できないという態度を堅持し、これこそがアメリカを建建国来はじめて債権国へと押し上げ、まだアメリカにとっては「一粒で二度美味しい」機会となった第一次世界大戦の最大の契機ともなったと考えられます。

(注4)当時世界の石油の70%をアメリカが握っていた。日本は石油のほぼ100%をアメリカに頼っていた。そのなかでのアメリカの対日禁輸の対象品目として原油が加えられた(日独伊三国同盟加入時に、鉄くずが対日禁輸品目であったのに追加された)。経済制裁としては、ABCD包囲網(アメリカ、イギリス、中国、オランダ)に重畳して行われた。

(注5)フーヴァー前大統領本人は、政権中枢から外れてしまっていたために、当時、マンハッタン計画を知らされていなかった。

投稿者:丹羽 広

最終更新日:2022年03月25日